陶心陶語

ぐい呑袋のこと

 

ぐい呑袋のこと

 

あなたの酒器のコレクションはありますか。あれば、思い出やエピソードを教えてください、と美術系雑誌の編集部のかたからご依頼をいただきました。

しかし困ったことに、店に良いものは取り揃えているつもりですが、私に酒器のコレクションはありません。酒器に限らず、良いものが手に入るとお客さまへの橋渡しに奔走することを信条にしているために、お恥ずかしいことですが、自分のコレクションは二の次になっております。

30年くらい前に清酒作りの革新が起きて、美味しい酒を造る熱心な酒蔵が現れたころに、若かった私も美味しい酒を探したことが懐かしい思いですが、今は年齢を重ねたこともあり、自宅で缶入りアルコールなどをたしなむ程度になっています。

昔話ですが、20年ほど前にブログを毎日更新している時期がありまして、その時は不景気で何も売れず日本が困窮した時代、21世紀初頭のいわゆるゼロ年代のころでした。

なんとかモノを売らなければいけないという思いで、草創期のインターネットで試行錯誤し、色々と試していました。

そんな最中に、巷でマイブームが起きました。であれば「マイぐい呑」もありと、「自慢のぐい呑コレクションを街に持ち出して愉しみましょう。」というキャンペーン的なブログを展開いたしました。そのうちに割れ物であるぐい呑を安全に携帯するには、アイテムが必要になると考えて、古来、粋人が巾着袋を愛用していたことを引用し、「袋に入れてぐい呑を持ち運びませんか?」とご提案しアピールすることにいたしました。名称を簡単明瞭に「ぐい呑袋」として弊社ブログに画像とともに掲載いたしました。

このブログは、想像以上に大反響がありまして、マイぐい呑を求める方たちが急増し、連日新しいお客さまにご来店いただいた思い出がございます。

今、そのブログは消滅していますが、写真が当時のブログに掲載したぐい呑とぐい呑袋で、ぐい呑は鯉江良二先生の引出し黒、ぐい呑袋はウチの奥さんの手作りです。

1990年代の初頭に、鯉江良二先生は引出し黒の作品を展開し、その名声を獲得しました。最高潮に達した高温の大きなガス窯の前扉を開け、消防服を着た鯉江先生が一点ずつ、灼熱の作品を取り出すという前例の無い制作法は業界的にも衝撃的で、結果、現代陶芸に新たな1ページを刻むことになりました。

このぐい呑は、その革新的な引出しの作業を経て生まれ、小品にも全身全霊を込めた鯉江藝術の一端として、コレクションを超えて私が大切にしている一品です。

 

 


鯉江良二・引出し黒ぐい呑 + マイぐい呑袋

 


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