加藤唐九郎 志野ぐい呑みのこと
「偶然性に魅力があるといえばある。中に隠れた色が、現れてきたんじゃなきゃ魅力がないね。女でも、化粧だけじゃ嫌なんじゃねえ。やっぱり心の中に持っとるものが、ほのぼのと出てくるところに魅力が感じられるわ。着飾った女なんてものは嫌なものなんじゃ。」
戦後の陶芸界に新風を吹かせ続け、昭和陶芸の名作を数多く残しただけでなく、後世にまで語り続けられるさまざまな伝説と逸話を残した陶芸家・加藤唐九郎。
桃山時代の志野・黄瀬戸・織部などの古陶磁の美の再現を原点とし、陶土や灰など原料から探求し、長い時間をかけテストを重ね、伝統技術を堅持しながらも柔軟な思考により最新の化学・窯業技術を取り入れて、茶道具のみならず、ビルの内外装を荘厳する巨大な陶壁を多数手掛け、昭和の陶芸巨匠として君臨した。
泥まみれの作務衣を着て一心不乱に土を踏み、轆轤の前に座して土と格闘、その制作に打ち込む姿は、たびたびドキュメンタリーとしてテレビに取り上げられ、印象的な姿は偶像視され、陶芸家という職業の姿勢を確立させることになった。
その独立独歩の芸術人生は、つねに新しいものごとへ向けられ、多くの物議を巻き起こした波乱万丈の過去を打ち消すように精進邁進に努め、87歳で没する直前まで制作に没頭する姿を見せていた。
この作品は、1973(昭和48)年に名古屋で開催された、7年ぶりの新作個展「野の陶人‐唐九郎展」に出品された「ぐい呑」です。
高温の窯の中での偶然の炎により素地の中に隠れていた美しい緋色が顕著に現れて、作品に彩りと潤いを与え、さらに無造作に描いたような鉄絵具の錆色により、作品が艶やかな生気を帯びています。
当時の新作個展図録に所載されていることから作者自ら認めた自信作と認められ、来歴が明確なコレクター垂涎で希少な一品です。
マニアのかたに向けての情報として追記いたしますが、「新・ぐい呑図鑑」の表紙に掲載されている作品でもあります。
加藤唐九郎 志埜ぐい呑み 共箱