北大路魯山人先生の作陶生活のなかで、初期から晩年期まで生涯を通して作り続けられたものは、志野・織部・信楽・伊賀の四通りの作風に限られている。
志野や織部は、年代ごとに大きく変化している様子を見ることができますが、伊賀については、初期作品と晩年作を比べてもさほど大きな変化は見られない。
登窯焼成による焼き上がりの変化に個体差は当然あるが、基本的な作風の変化はないように感じています。
そのことから、魯山人の伊賀作品への愛着と自信を感じることがあります。
魯山人が考案した伊賀釉は、登窯焼成前に松灰釉をたっぷりと掛け、高温焼成であえて釉薬を流下させて、釉だまりを作るというもので、その新技術を以って制作される伊賀釉作品は、美しい発色を呈する深緑色が特徴です。
併せて成形の際に、大振りなハマグリを用いてシノギされ現れる波状の凸凹は、その美しいビードロと呼ばれる深緑色の釉色を引き立てています。
この平鉢は、魯山人の伊賀の魅力がたっぷり盛り込まれた一品です。